いつものドアから電車に乗り、空いている席があったので座った。
ふたつほど駅を進んだところでおじいさんが僕の前に来たので席を譲った。
おじいさんは背筋を伸ばし、手をひざの上に置き目を閉じた。
しばらくするとかすかな寝息。熟睡しているようだ。
すると突然、カッと目を見開き、宇多田ヒカルの「Traveling」を唄いだした。
「しーごとーにもせいがでるー・・・」
僕はびっくりして、戸惑っていると、おじいさんの隣に座ったOLが携帯を取り出し、話しはじめた。
「いま、電車なのごめんねー」
おじいさんは何事もなかったように再び寝息をかき始めた。
今度はおじいさんが旧に震えだした。
定期的なリズムで小刻みに震えている。
僕は携帯を取り出した。
「欲求不満の未亡人と過激生チャット!欲求不満の人妻達があられもない格好であなたをお待ちしています・・・」
なんだよ、出会い系メールか。メールを消去し、携帯をポケットにしまいこむ。
ふと目を上げると、目の前におじいさんが立っていた。上着を脱ぎ、上半身は裸だ。
ガリガリに痩せ細った胸にはランプがついた四角い金属の箱が埋め込まれていた。
「ガガガ・・・わたし、よっきゅうフマンナノ・・・」
おじいさんは震えだした
「ゲンキー?サイキンナニシテルー」
おじいさんは裏声で唄いだした
「ザーグーラーザーグーラー」
おじいさんは唄ったり震えたりを繰り返す。
「モシモーシ・・・アレ?デンパガヨワイナ・・」
「エーマジデー?キクカワレイッテチョウムカツクジャン」
「ピーガガガガ・・・fjkaejfag@9fewふぇあwf」
周りをみると車内のほとんどの人が携帯電話を持っていた。
誰もおじいさんには気づいていないようだ。
おじいさんはあいかわらず唄ったり震えたりを繰り返している、そして左胸のランプは激しく点滅している。
車内アナウンスが聞こえた。
「えー車内では携帯電話の電源を切るか、マナーモードにしてください・・・」
周りの人はそれに気づき携帯電話の電源を切った。
おじいさんは上着を羽織り、席に座り、手をひざの上に置き目を閉じた。
しばらくするとかすかな寝息が聞こえてきた。

ホシハヤト

サッカーと唐揚げと蕎麦をこよなく愛し、気がついたらインターネット業界にどっぷり浸かり、体中がインターネットでふやけてしまったガラスの37歳。 GMOペパボという会社で Excel のセルとセルと結合したり、白目を剥きながら右クリックをしながら過ごしています。